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きつはそれまでずっと話すタイミングをうかがっていたようだったが、みずのにそう言われると慌て出した。
「俺は、木津宗太郎。銀行で働いてました。ここに来たのは、多分、二ヶ月以上前だと思います。やまかわさんの前からここにはいました」
きつは暗記していたように一気に言った。
そろそろ全員自己紹介が終わっただろうか。大抵皆ここ二、三ヶ月の間にここに来ているが、タイミングはバラバラであるということがわかった。
「じゃあ、後はしゅんすけだけだな。自己紹介できるか?」
たつおが気遣うように言った。しゅんすけはいつもの元気な声を、少し恥ずかしがらせながら答えた。
「・・・うん。田嶋俊介・・・六才」
ゆういちは、六才にしてこの状況で泣き喚いていないことに感心した。そしてこう訊ねた。
「しゅんすけ君はいつからここにいるの?」
「・・・んーとね、ずうっと」
さすがに六才の子供がそんなことを覚えているわけはないか―とゆういちは断念した。なにもないこの場所での時間は、大人でさえ普通の生活しているときに比べ、長く感じるので、恐らく子供であるしゅんすけにとっては、相当な長さでここにいる感覚であるだろう。
「しゅんすけは、この中で一番昔からここにいるのよ。ね、きつさん?」
しゅんすけの次にこの場所に来たらしいきつだったが、咄嗟に話しかけられ「うん」と気のない返事をすることしかできなかった。
とにかくこれで、元々ここにいた人達の自己紹介は終わったようで、たつおが「よし、後は君だけだな」と教えた。
「えー、河野友一です。十六才。ここに来る前のことは覚えていません。みなさん、これからよろしくお願いします」
「はーい」
のりこが言った。
「なーんだ。十六かよ。おれより年下じゃねーか。これからはたつお先輩って呼んでいいからな」
たつおが調子よく言った。
「え・・・」
「なーんて、たつおでいいよ。よろしくな、ゆういち」
ゆういちは、ここでの生活を楽しめるような気が少しだけしてきた。
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