3.退屈

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 できることは、話すこと、考えること、眠ることだけだった。睡眠については、寝ている間に、夢を見ることができるということが新たにわかった。このことが、この暗闇が夢であるという可能性をますます考えにくいものにした。夢の中で夢を見ることなんて果たしてあるだろうか。ましてゆういちは覚えているだけでもう何度も夢を見ていた。それはともかく、ゆういちは夢から覚めてこの世界に戻った時、いつも虚しさを感じていた。夢の中では光があって、体もあって元気に走り回っていても、目が覚めると辺りは真っ暗―という普通とは逆の状況がこの世界では起きていた。それでもゆういちは、たとえ虚しさを感じるとわかっていても、一瞬でもこの暗闇の世界のことを忘れて、自由に動き回れることを楽しみにしていた。それがどんなに恐ろしい夢であったにせよ、この退屈な空間に比べればましに思えた。  退屈を紛らわせようと、主にたつおが中心となっていろいろな話をした。このたつおという男は元の世界で一緒にいたらうるさいくらいに思っただろうが、この退屈な世界ではその明るさが皆の救いとなっているのは確かであった。 「その、飲み会に来たおねーさんがー・・・」 「たつお君、君はまだ未成年じゃなかったっけ?」  みずのの冷静な指摘も、たつおはひらりとかわす。 「しーっ。いーんですよ。ひろさん。細かいことは・・・それで、仲良くなったのはいいんだけど、そこから先が思い出せないんだよなー。今頃寂しがってたらどうしよう」 「ないない」  心配するたつおにのりこが呆れて言った。 「それは、お酒のせいで記憶がないってだけで、おれ達と同じ記憶喪失じゃないでしょ」  たつおのように、記憶がしっかりと残っている人と自分にはなんの差があるのだろう―ゆういちはずっと疑問に思っていた。そもそも自分はここに来る以前から記憶喪失だったのではないか。そうだとしたらのりこやしゅんすけもそうなのだろうか。ゆういちはしゅんすけに何度かここに来る前のことを聞いたことがあった。いずれもしゅんすけは急に元気をなくして、なにかに怯えるように話さなくなり、それ以上聞き出すことはできなかった。とにかく、若い人間が偶然に三人も記憶喪失だったとは考えにくかった。記憶喪失だからこそ、自分達はこの場所に来たのではないか―とも考えることはできたが、そうするとほかの三人にはなぜ記憶があるのかということになる。
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