1.非日常的な日常

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「小松菜」 「・・・」 「・・・次、のりこねーちゃんだよ」 「ん?な・・・苗」 「なぁ、そろそろやめようぜ?」  もうかれこれ二時間以上に長引いたこの勝負は、ゆういちを精神的に追い詰めていた。ゆういちは正直に言うと―隠すつもりがあったわけでもないが―もうとっくに飽きていた。それはのりこも同じようで、さっきから声にメリハリがなくなってきているうえ、反応も遅くなっていた。 「だめだ、今日は決着がつくまでやるぞ」  ゆういち達が明らかにやる気がないことを態度で示しているにもかかわらず、そう言って聞かないのがたつおだ。彼はゆういちよりも年上だというにもかかわらず、飽きるどころか勝負に燃えていた。常に活気に溢れていて―というか精神年齢の低いやつだ―とゆういちは思っていた。暇つぶしのつもりでなんとなく始めたはずだったが、いつの間にか真剣勝負となっていた。  今回ゆういちが、このくだらない勝負に付き合ってきたのは、なによりしゅんすけが楽しそうにしているからだった。ところが、ここまで長引くとは思っていなかったゆういちは、さすがに疲れ始めていた。しかし、たつおのようすからすると、途中でやめることは許されそうにもなかった。諦めたゆういちは正攻法で終わらせることにした。 「はぁ・・・”え”だろー・・・エタノール」  ここにきての”る”はなかなか出てこないだろう。ゆういちはそのまま降参して欲しかったが、この男に限ってそんなことはするはずもなかった。 「る!また”る”かよ。るー、るるるるー・・・」  たつおは追い込まれているのを楽しんでいるようだった。しばらく答えに戸惑っている間に、しゅんすけが不思議そうに訊ねた。 「ねえ、えたのーるってなに?」 「そりゃあ、あれだよ、しゅんすけ、お酒だ。お酒」  たつおが酔っ払いのようにへらへらした声で言った。 「ちょっと、たつお、しゅんすけに変なこと教えないでよ。エタノールは・・・火が付くやつよ、・・・ねぇ?ゆういち」  のりこはそう言ってたつおを注意したが、自分ではうまく説明できないようで、ゆういちに助けを求めた。 「あ、おれ?そ、そうだね」  そう言われても、ゆういちは勉強があまり得意ではなかった。いまひとつ納得いかなそうなしゅんすけに、はっきりと答えてやることはできなかった。
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