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あきらめ
蒼ノ下雷太郎
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地下鉄に乗ると、何かをあきらめたくなる。
がたんごとん。
電車は進む。
窓硝子の向こうは暗く、闇に包まれたビルが民家に変わる。それがいつからかも分からず、僕は座席につき、うなだれていた。
夜は電車が混むと思いきや、ここまで遅いと混みようがない。時刻は二十三時。もう、一日が終わろうとしている。何でこんな時間までと嘆きながら、足元を見ても薄汚い床が視界に入るだけ。
天井を見ると、どうでもいい広告ばかりが並ぶ。イヤホンを忘れた耳に入るのはこれまたどうでもいい豆知識、そのあとにCM。乗車ドアの上にある液晶から流れる。そんなの買わねーと思いながら妙に頭に残ってちゃんと宣伝になっている。
首に巻いてるネクタイがわずらわしい。
汗かいたスーツは重りのようにのしかかり、スマホでヒマを潰そうにもスマホアプリでさえいらない広告を入れてくる。課金、課金、課金。課金をしてくれと、これ以上僕から何を取る気だってほど語りかけてくる。カバンから本を出すと、どれも似たような内容に辟易する。
都心から離れると人は驚くほど減る。いや、時間も時間なんだが。車両には二~三人しかいない。ほぼ貸切。あんまりうれしくはない。
「………」
『次は――駅。お乗りのお客様は――』
まだ着かない。
随分と遠い職場を選んだと後悔し、駅の路線図を眺め、あといくつだっけと数える。まだ大分あることに気づき、考えるのをやめる。
『次は――駅。お乗りのお客様は――』
あともう少しで着くよ、の合図には聞こえない。それよりも、カウントダウンのように聞こえる。もうこれぐらいしか猶予がないというカウントダウン。
【あきらめちゃえば?】
気づくと、僕の前に人がいた。
七人分の座席の、真ん中。二、三、二と分かれた座席の三、その内の真ん中にいる。僕もそういうのに座ってる。その人物も座ってた。僕らは、向かい合わせで対面していた
その人物の特徴は――何故か、認識できない。
電車の内部を語ったように、その人物のことも語ろうとしたが、トンネルを通過するように頭に思ったことが何処かに行ってしまう。
【あきらめちゃえば?】
電車は進む。
そういえば、次の駅は何だったか。
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