第1章

4/8
前へ
/8ページ
次へ
 こっちの気も知らず、ゲームしながら笑っている。いや、携帯ゲーム機は外でやれ。てか、休み時間が刻一刻と迫ってるのだが。一応そのことを無線で上司に告げると「あぁ、あとで取らせるから」と言われた。  それ、前にも言ったよね? で、取らせなかったよね。  お客様がちらちらとこっち見ながら指差して、バレないとでも思ってるのか友達の背に隠れてファックサインしたり、バーカ、とクチパクで言ったりする。このまま衝動に任せて殴れたら爽快だが、そんなことしたら、どうなるかは分かってる。クビならまだ良い方、賠償金になんてなったら、払いきれるだろうか。 「………」  ガタンゴトンっ。  カタカナ?  どこかで、地下鉄の音が聞こえる。  002  最近、どこにいても電車の音が聞こえる。  ――ガタンゴトンっ。  いや、電車の音って具体的にはどういう音かと聞かれたら、知識がないので何ともいえない。ガタンゴトンっ、て。よく使われる擬音ではあるけれど、実際はどういう音だ。多分、車両が揺れる音なんだろうが。今時の電車って、そんな音するかなぁ。 「………」  自室にいる。  六畳間のアパート。  床はフローリング、キッチンあり、トイレあり、お風呂もある。小さいけど。ベランダもあるが、そこはたまに洗濯物を干すだけで、他はガーデニングをやろうとして失敗した残骸しかない。  キッチンもクックパッド見て挑戦したので、高そうな調味料がある。ナンプラーだとか、何とかソルトだとか、油も数種類揃えた。一時期は料理作るのが楽しかったが、今じゃコンビニ弁当で毎日を終える。だって、腹に入りゃ何でも同じだろ。そう思うようになった。 「………」  昔は休日になると中学や高校時代の友達とどっかに出かけたが、いい歳になるとそんな機会も減った。友人の中には結婚したのも多いし、してなくても暇じゃない奴らがほとんどだ。僕だけ、暇な休日を過ごしてる。  家にはパソコンがあり、映画配信サイトに登録してるから一日を費やすことも可能だが、やめた。外に行って、暇を潰そうとする。この歳でゲームもあれだし、とパチンコへ。いや、これもゲームだ。もっと、タチの悪いゲーム。案の定、僕の財布を軽くしやがった。何万も吸って、五千円の勝ち。いや、これは勝ちではない。最後に一回だけきたが、一回だけだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加