第1章

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 換金した際に、ここで働ければラクかなと思うが、いや、それはそれで大変かな。今ラクして、それがずっと続くわけじゃない。四十や五十になったら、どうなるんだという焦りが芽生える。 「………」  いや、それは今の仕事にも言えるわけだが。  翌日、仕事。  商業施設の警備員というのは不人気な商売らしく、いつも人手が足りない状況だ。だから、僕はいつも同じ人と組むことが多い。  その人は六十代の人だった。僕よりも年上の先輩ということになる。  彼は本来なら年金をもらえる歳だが、遅い結婚で子供が生まれたため、まだまだ金が必要なんだとか。  その人は休憩時間にうるさかった。  うちの警備は施設の従業員出入り口にある警備室を起点とし、常にそこに一人いて、もう一人は施設に用があるとこに赴くというスタイルを取っていた。  で、一時間ごとにその巡回と警備室の者が交代する。交代する際に、五分ぐらいの休憩を互いに取る。どっちが先に取るかは、大体は巡回した者が、と暗黙の了解があるのだが。  その人は、いつも自分から先に取った。  ……いや、その人が全面的に悪いのではない。僕がそうさせたのだ。僕が巡回から帰り、先に休憩取らせてもらうとときっちり五分でも文句を言い、早めに四分か三分で終わらせても文句を言い、じゃぁ全部やるよ、とあきらめた結果だ。だから、僕が悪いともいえる。 いや、じゃあ他にどうすればよかったの、と聞きたいけどさ。  あるとき、珍しくその人が休みのときがあった。 「やったじゃん、あの人今日はいないよ」  と、本社の助っ人が言っていたっけ。  いや、色々苦手な面はあるが嫌ってるわけではないので、それは返答しづらかったが。 「あ、それはそうと、怪しい奴がいるから行ってね」  僕は駐車場の巡回をしてたのをやめて、地下の食品売り場へ向かう。言われた先にいたのは、いかにも不良そうな外見のお客様。チャラチャラとアクセ、金髪している。いや、人は見かけで判断すべきではないが、個人ではそれができても集団じゃ見かけで人を判断すべきとなる。そして、それに逆らうことはできない。 「じゃあ、辞めろ」と言われたら、僕は何も言い返せないのだ。  僕は、そのお客様に分かるようにあとをつけ、万引きしないよう監視するが。 「よう、――ちゃん」  肩を叩かれた。  それは、いつも僕と組むことが多い六十代くらいのおじさんだった。
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