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2話 勘違い
この王様と出会ったのは、事故に巻き込まれたというか避けようがなかった、出会いであった。
元々は王様ことミカド先輩は学校では誰もが知っている有名人。
噂では、彼女が何人もいるとか、肩がぶつかっただけで学校を退学させたとか、あまり良い噂は聞かない。
けれど、顔は物凄く良いためか女子には人気であった。
噂を聞いていた当時の俺は、一つ下の学年であったので、そうそう会うこともないから大丈夫だろと高を括っていた。
しかし、ある日の学校の昼休みのことだ。
いつもなら友人とよく食べていたのだが、ひさしぶりに外で昼飯を食べたい気分だったので、その日は裏庭に来ていた。
人が全く来ない寄せ付けない、雑草だらけで閑散とした場所。
大きく伸びる木々生い茂り。葉の隙間から光が差し込むのも微々たるもので、きっと夜になれば真っ暗の中でいい肝試しができるだろう。
利点はただ静かに過ごせるということがいい所である。
静かな空間で俺は座って食べようと置いてあるベンチに近づいた。ベンチも寂れた雰囲気に合うように古く、木の板は所々穴が開き、鉄の部分なんかは茶色く変色し錆びついていた。
そのあまり利用はしなくないベンチに、誰かが寝転がっていた。
先を越されたか、とそう思った。
珍しい住民の顔ぐらい拝んでやろうと好奇心を交えて覗き込んだ。
なんとそこには、例の王様がベンチで横になって濡れたタオルを額に当てていたのだ。
最初は自分が見たものを否定するほど動揺したがよく見ると目を瞑っていた。
遠目でしか見たことない王様は噂で聞いたとおり、鼻すじが通った綺麗な顔だった。
病人のような彼の顔色をよく考えると、今日は日差しが強く熱中症になりそうな気温であった。あーこの人は多分、日差しにあてられたのであろう察しがつく。
関わりたくないがとりあえず保健医呼んだ方がいいだろうと思い、気づかれないようにここからゆっくりと退こうとしたが。
ガシッ。
しかし、何故かそこから一歩も歩くことも体を起こすことも出来ず。
「おい、待て。」
辺りを見渡し、声のする方を見下げればさっきまで寝ていたはずの王様に腕を強く引っ張られていた。
彼は瞼を開いて起きていた。
「これ、おまえがしたのか。」
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