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彼女は僕の心の雨を晴らせた
ある公立中学の二年生時、僕は一目惚れをした。
梅雨の時期、しんしんと雨が降る日。バス停の屋根が付いたベンチで文庫を読んでいる彼女をみかけた。長い黒髪、すらりと伸びた足、そして大きな瞳が目に焼き付く。制服から判断するに、私立中学校の三年生であるようだった。
そのバス停は閑散としており、彼女と二人きりでバスを待つ。
僕は普通バスを使わない。この日はたまたまだったのだ。僕は自分の傘をバス停前のコンビニで子どもにあげてしまっていたのだ。その子は傘を盗まれて泣いていたから。普段からそんなことをしてるわけではない。ほんの気まぐれであった。おかげでバスを使うはめになりはしたが。
この日、彼女に話しかけることはなかった。僕がしたことは目的地でバスを降り、彼女を見送っただけだった。
家に帰った後である、彼女に心を奪われていたと気付いたのは。僕はあの時に何もできなかった、しなかったことを大いに後悔した。
だが、しただけ、だった。
予感めいたものがしていた、彼女と会えるのは雨の日のバス停だけだと。実際、その通りではあった。
だから僕は、てるてる坊主を逆さに吊し、蛙を、蛇をいじめ続けた。
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