彼女は僕の心の雨を晴らせた

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 僕は昔から行動力も勇気もない。こんな僕は恋をしてはいけなかったのだろうか。本来なら彼女と知り合う努力をしなければならないだろう、彼女に好かれる努力をしなければならないだろう。しかし何一つしてこなかった上に、これからもするつもりがなかったかもしれない。それ、なのに。  高校一年時の六月、ある雨の中、下校中にあのバス停で、彼女と、言葉を交わしてしまった。 「これ、落としましたよ」  ――どうしようどうしよう。いつも見ていたあの人に話しかけてしまいました。  あの人が落としたバス定期を拾った、ただそれだけのきっかけではあるのだけれど。二年前の六月、はじめて見かけた日から心奪われていたあの人に。バスで文庫を読んでいたあの人に。お近づきになりたかったあの人に。  勇気が出なくて、話しかけたくてもできなかった、雨の日にバスでしか会えないあの人に。 「ありがとうございます」 「いえ。ではまた。雨の日にでも」  ワタシは何を言ってしまったのだろう。また? 雨の日? 個人的にジンクスめいたことなのに、伝わるわけがないのに。気持ちの悪いやつだと思われてしまうかもしれない。 「ええ、いつものように」  ――信じられない信じられない。伝わった、わかってくれた。それも柔らかな笑顔で。  あの人はその言葉だけを残して立ち去ってしまった。光陰矢のごとしというものを思い知った気がする。一瞬の出来事でした。     
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