『もう一人の知らない私』

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『近づいて来ている』と言った主人の言葉通り、次の目撃者は他ならぬ主人だった。 とあるショッピングモールへ、二人で出掛けた時の事である。 主人がトイレへ行くというので、私はその時近くにあった文具売り場にいるからと伝え、戻りを待っていた。 手持ち無沙汰に商品を手に取り眺めていたのだが、中々戻らない主人。 やがて「あれ!?こっちにいたの!?」という声と共に、主人が戻ってきた。 「ずっとここにいたけど」 「本当?いや、トイレから戻る途中さ、ペットコーナーでナギサを見たんだ」 「行ってないよ・・・・・・?」 子犬のケージの前にいる私を見つけ、呼び掛けたが反応がなかった。 ケージの向こう側に行った私を追い掛け、通路を覗き込むと姿が消えていたそうだ。 「ケージとケージの間の通路だし、見失うはずないんだけどな・・・・・・。それに、皆が言うように服装も同じだった。あれはどうみても、ナギサだったよ・・・・・・」 漠然とした不安に襲われる。 本当に、もう一人の自分を見てしまうんじゃないか。 その予感は数日後、現実のものとなる。
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