『もう一人の知らない私』

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途端に恐ろしくなったが、このまま逃げるのも釈然としない。 目の前を行く『私』が突然こちらを振り向く妄想に怯えながらも、五メートル程の距離を保ちながら、その背後について行った。 外に出るまでは一本道。 見失うはずはなかった。 追い抜いて顔を見てみたいという心理と、得体の知れないものへの恐怖が渦巻き、せめぎ合う。 やがて突き当たりが見え、『私』は階段のある左側へと曲がる。 『私』も待ち合わせ場所へ行くのだろうか。 そう思い、早足で追いかけ左へ曲がったのだが・・・・・・。 「えっ!?・・・・・・何で?」 『私』の姿はどこにも見当たらなかった。 見上げた階段の先にも、昇り切った地上にも。 目を離したのは左へ曲がった時の数秒だけだったのに。 だが、正面から出会わずに済んだ事に胸を撫で下ろしたのは、言うまでもない。 その後。 目撃談は少なくなっていったのだが、今でもたまにもう一人の知らない『私』を見たと言われる事がある。 ー『もう一人の知らない私』完ー
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