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青弥が今度はゆっくり振り返ると、悟志が欠伸をしながら起き上がっていた。
「さ、としさん。」
なんだ?―――と、悟志がゆるりと目元を緩める。
―――ちょっと、なにその顔!?
見慣れぬ悟志の表情に、ボカンッと頭が破裂しそうになった。
「なんだその顔。」
青弥の顔を見ながら、悟志が呆れたように言う。なんだその顔とは、こっちのセリフだ。
悟志の呆れ顔は普段通りなのに、どこか甘く感じてしまう。
「青弥。次、脱走したら、首輪つけてやるから覚悟しておけよ。」
「―――犬じゃないもん。」
何やら上機嫌な様子の悟志を前に、どういう顔をして良いのか分からない。言ってる事はムチャクチャだが、表情はひどく優しい。
―――なんで、この人、いきなり変わっちゃってんの。
この前まで、青弥に対してほぼ無関心であったのに、どういう訳だ。落差が凄すぎる。
「『もん』言うな。なんだ、犬が不服か?せっかく可愛がってやろうと思ったのに。」
「可愛がって、」
悟志からヨシヨシと頭を撫でてもらうシーンが頭に浮かび、ちょっと顔がニヤけた。そんな青弥を見て、悟志が甘やかすように笑う。
ずきゅん―――と、心臓を撃ち抜かれた。
どうしよう。
悟志の男前に磨きがかかって手を付けられない。
危険すぎる。
最早、男前兵器だ。
こんなのを相手にして、青弥が敵うはずはない。
「イイ子にはご褒美やるから、大人しく飼われておけ。」
青弥は真っ赤であろう顔を両手で隠し、はい―――と、消えそうな声で返事をした。
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