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母なんてサバサバした性格だと思っていたのに、いざとなると涙ぐんでいた。
「やだな。子離れできていない親ってどうかと思うよ」
そんな心にもない憎まれ口をたたく。
だって、このまま目の前で泣かれると理香までほろりときそうだったから。
「なに言ってんのっ。この涙はね、理香が周りとうまくやっていかれるかどうか心配してる涙。こんな子に育てた覚えはないなんて台詞、言わせないでよね」
あり得ない。
一体どんなことをすれば、親がそんな台詞をはくんだろう。
「大丈夫。あなたの自慢の娘はこんないい子に育ってますってばっ」
そう言って明後日の方向をむく。
本当に理香まで目頭が熱くなっていた。
それを誤魔化すために、校庭なんかをきょろきょろ見ていた。
「あれ、お祖父ちゃんは?」
さっきまで母の後ろにいた。
姿が見えない。
「厠じゃないの?」
母の言い方に吹きだした。
今時お手洗いのことを厠なんていう人はいない。
けど、祖父はたまにそういった古い言葉を使うのだ。
「でもさ、スポーツの有名校だけあって体格のいい学生、多いわね。それにお母さん好みのかわいい男子もいっぱい」
笑える。
さっきまで涙ぐんでいたのにもう周りの男の子を見て笑っていた。
母は理香と同じアイドルグループが大好きだ。
いや、理香よりも熱心にCDやDVDを買い集め、観ている。
「ほらほら、あっちにいる男子、タレントみたい。この学校って顔面偏差値、高いのね。お母さんもここへ入学したくなっちゃった」
キャッキャとはしゃいでいる。
「お母さんたら」
無邪気な母だ。
けど、祖父が気になっていた。
どこへ行ったんだろう。
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