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「あっちの方、みてくる。お祖父ちゃん、迷子になっちゃったのかも」
「やっだぁ、それって耄碌しちゃったってこと? 負担が増えて困るわね」
母が遠慮なくそんなことを言っていた。
外のお手洗いの方にはいなかった。
それではどこへ?
ふと、校舎の方に祖父らしい袴姿が見えた。
和服は目立つから、こんな時に便利だ。
けど、一人ではない。
誰かと話していた。
その辺の学生に声をかけて話でもしている?
そっちへ向かって歩いていく。
祖父よりも頭一つ出ている背の高い、その人に見覚えがある。
たぶん先生だ。
一通りの教師紹介で見覚えがあった。
でも、なぜ先生とこんなところで話しているんだろう。
ふと浮かんだ疑問だった。
祖父が理香に気づいた。
そこで話を打ち切ったらしく会釈をし、祖父はこっちへ向かって歩いてくる。
教師はもう背をむけて校舎へ入っていった。
誰だったんだろう。
「お祖父ちゃん、探したよ」
「ああ、悪かった。もう行く時間かな」
「帰りの電車にはまだ間があるけど、お母さんが早く駅へ行きたいんだって。駅前のケーキ買うってはりきってる」
駅前に甘さ控えめでおいしい流行のケーキ屋があった。
祖父の顔がほころぶ。
「そうか。わしも楽しみだ」
他の人には怖いという印象を与えている祖父。
家の中でも時代錯誤なことを言ったりして威張り散らしているが、理香には非常に甘い。
母に隠れてよくお小遣いをくれる。
今朝だって勉強だけじゃなくて遊びにも励めって、まとまったお金をもらっていた。
「ねえ、お祖父ちゃんと話していた人、先生だよね。何を話していたの?」
「ん、理香の将来のことをな」
「えっ、なにそれ?」
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