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「まあ、そのうちに、いいな、理香。おなごは慎ましく、しとやかに。控えめに見せて裏で賢くやるのだぞ」
「へっ、なによ。江戸時代じゃあるまいし。お祖父ちゃん、頭おかしくなったの?」
「何を言うか。お祖父ちゃんはまだまだ、後三十年は健在だ」
いや、この祖父ならあと四十年は大丈夫だって思う。
母が駆け寄ってきた。
時間を気にしていた。
「お義父さん、もう参りましょう。私、あのケーキ屋の他にも寄りたい店があるんです」
娘の入学式だけに来ているわけじゃないらしい。
「わかっておる。じゃあ、理香。達者で頑張るんだぞ」
「はいっ、ここまで来てくれてありがとう」
そう言って理香は手を振った。
ちょっとだけ涙がこぼれた。
それが入学式の日のことだった。
その夜、寮での夕食のとき。
数人の教師が前に立った。
大きな学生寮、一日三食、前もって届を出せば、その時間に合わせて何か作ってくれたりもするらしい。
部活での合宿も行われるから、寮生と合宿の生徒たちで食堂はごった返すそうだ。
体調が悪いときはお粥も作ってくれるそうで、かなり評判がよかった。
部屋は狭いが、二人部屋。
中央で仕切りができるから、一人が夜遅くまで勉強をしても差し支えない。
数人の教師たちもこの寮を利用していた。
学生の世話をする寮母もいたが、教師は当然の如く、寮の監督も務めることになる。
背の高い、イケメンの先生が寮の規則について話していた。
メガネの下の顔は厳しい。
「門限は九時。もし、これに遅れそうになるなら連絡すること。外泊は実家のみ。原則的に他への宿泊は認めない」
「ええ~」という抗議の声があがった。
そっちの方向を睨みつける先生。
理香もそれは厳しいと思う。
沙枝がひそひそと話してくる。
「あの先生、三原っていうんだって。すっごく厳しいって有名らしいの。数学の鬼だって」
「へえ」
そう教えられて、改めて目をむける。
確かに厳しそうな顔をしている。
苦手だって思う。
しかも数学もあまり得意ではない。
ますます数学が嫌いになりそうだ。
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