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「でもさ、死にたくなることだってあるだろ。倒れたまま起き上がれなくて、死ぬことしか考えられないっていうか…さ」
「それは、ん、漠然とした死のイメージですね。一度死んでみたらどうでしょう?このカプセルに入ってみればいいのですよ」
「一度って、え?俺死んじゃってんの?」
「いえ、七海さんは生きてますね。ご心配なく」
「びっくりした。死ぬかと思った」
「一直線に地獄まで行ってみたら良いのです」
「ん、それもなんか可哀想だな。地上で苦しくて、どうしようもなくて、それでまた地獄じゃさ、救われないじゃん」
「七海さん、甘ったれですね。地獄がどんな所だと思ってます?」
「地獄?そりゃ、鬼がいっぱいいて、極悪人が落ちる、血の池地獄とか、針の山地獄とか、絶対落ちたくない所だよ」
「なるほど。では、竜宮城は?」
「竜宮城?其処はいいとこだな。超カワの乙姫様がいて、リュウグウノツカイや鯛や平目が舞い踊るアミューズメントパークって感じ」
「ふぅん」
「ふぅんって、じゃどんなとこなんだよ」
「私は舞い踊ったりしませんよ。竜宮城は行ったことがないのでわかりませんが、地獄はだだっ広い、殺風景なオフィスです。毎日只管審査に明け暮れています」
「ほぅ、それは初耳。なんかイメージ狂うな。オフィスって」
「地獄も極楽も、人が生まれて、行いの後にやがて行き着く場所という教えでしょうか?…竜宮城かぁ…」
タブレットを覗き込みながら、ぽつっと呟いた。こいつは結構いい奴なんだろうな。
「休みってあんの?」
「年中無休ですから」
「ブラックだな」
「完全労基法違反ですよ」
「偶には竜宮城とかでストレス解消出来るといいのにな」
「ですねぇ」
これは愚痴か?ライフセーバーのくせに。
靴紐を結び直したりして、いっ気にトーンダウンしている。こいつを励ます筋合はないが…。
「な、もう一個聞いてもいい?」
「どうぞ」
カウンセリングを思い出したのか、今度は穏やかに頷いた。
「ん、あのさ、母親の胎内で死んでしまった生命の行き先はあるの?」
「ん、む。難しいことを聞きますねぇ。少し待って下さい」
黒執事は、顎に手を当てしきりと画面をタップしていた。
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