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この迷信が村人に強く信じられている理由は、100年以上前から記録が残され、ほぼ10年に一度、迷信の条件に合致する年があり、その年は必ず誰かがいなくなっているそうなのです。
ただ、近年では気象条件の変化によるせいか、最後にこの条件に合致した年は、既に二十年以上も前の事になります。私達はまだ幼かったため当時の記憶はありません。
これだけ長い期間条件に合致する年がないと、村でも迷信対する緊張感は大分薄れてきているのが実情です。
私が帰省した初日は、例祭から4日後にあたる日でした。
そしてK子が気にしていたのはここからになります。
例祭の翌日から3日間降り続いた雨により、白霞泉の水位がお社に達したことを、今朝調査に行った役場の職員が確認したとのことです。
迷信の条件に合致するのは22年ぶりになるそうです。
そしてこの後、村民に対して注意喚起の通知が行くとのことです。
ですが、あくまで迷信。K子は気にし過ぎなのではないかと思いました。
しかし、更に気掛かりなことがあるようでK子は話を続けました。
例祭から数日間、白霞泉の夢を見続けているというのです。
木々に覆われ静まり返った泉の畔にK子は立っているそうなのです。霞がかった泉の向こうから得体のしれない黒い影のようなものが、水面を歩き自分に近付いてくるというのです。
ピチャッ ピチャッ ピチャッ
少しずつ……
ピチャッ ピチャッ ピチャッ
少しずつ……
ピチャッ ピチャッ ピチャッ
ハッ……
このタイミングでいつも目が覚めるそうです。
そして更に気掛かりなことは、夢を見る度この影は着実にこちらに近付いてきているそうなのです。
昨晩見た夢では、間近にまで迫った影が自分を憑り込もうと覆い被さろうとした瞬間、目が覚めたそうです。
そこまで話し終えたK子は、まるで生気が抜けたように青白い顔をしていました。
過去に迷信によって亡くなったとされる方々の中には、周囲に「白霞泉の夢を見た」と話していた方がいたらしく、これも迷信の一部としてよく知られている話なので、K子が不安になるのも当然だと思いました。
ですが、その時の私にはK子を励ますこと以外何もできませんでした。
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