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既に他の人の手に渡っていたら、もう二度と自分の手元には戻って来ないであろうと栞は確信していた。
だが、繁盛してるとは言い難いこの店に、少しの望みにかけ不安に思いながらも店の奥を覗けば、以前と同じ男が同じ場所で同じように本を読んでいた。
「…ぁ…あの…」
やっとの思いで発した栞に、男は「え?なに?聞こえない?」と冷ややかに言った。
(な、なんてひと!こないだ来た時も思ったけど、お客に対しての態度じゃないでしょ!
そりゃはっきり話せない私も悪いけど…
それにしても酷くありませんか⁉︎)
栞はレジカウンター横のガラスケースを指差し、大きく息を吸い「…あの本!」と言った。
だが、男は「本?うちは古書店だから古本で良かったらいくらでもあるから、好きなだけ見てって!」と言ったのだ。
(この人絶対私の事覚えてる。覚えていて意地悪言ってる)
栞は男に対し怒りを覚えたが、怒りの言葉を露に出来ない歯痒さから、ガラスケースの扉を無理やり開けようとした。
「ちょっと君!鍵が壊れるから止めてくれる?中の本が見たいならそう言ってよ?」と言われ、栞は男を睨んだ。
だが、男はそんな栞を見て楽しそうに笑った。
「あぁ君?」
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