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そこからは私が何を言っても、“オーナーが” “オーナーは” “オーナーと”。 どこからが本当でどこまでが嘘なのか分からないような話を延々繰り返され、疲労困憊の私にはこれ以上、太刀打ちすることが出来なかった。 精魂尽き果て、心を無にし、「もういいです」と言って事務所を出た。 店を出るまでの通路で数人に、お疲れ様です、と声をかけられたけど返事は出来なかった。 沸き立つ苛立ちと悔しさが胸の奥で熟成され、今にも涙に変わりそうだったから。 結局、どんなに大人ぶったところで、私は無力なんだと気付いた。 お金とか将来の話をチラつかせられるだけで、怖気づき、抗(あらが)うのをやめてしまう。 それらを失った自分がコワくて堪らないから。 誰かに責任を転嫁する度胸もないし、逃げ出す勇気もない。これが私なんだ。 あの丸山のような人間にすら言い返すことも出来ない、無力な無力な.....。 ガチャン.....。 裏口の鉄扉を開け、外に出ると、ジワァ、と照り付ける太陽が私の目を細めさせた。 あまりの暑さにジリジリ揺れる道路、いつもなら顔を扇ぎながら進むけど、今はそんな気力すらない。 帰り道の方へ少し歩いて横断歩道の信号が変わるのを待つ。 すぐ隣にベビーカーを掴みながらスマホをイジっている若い母親や、少し年上のカップル、買い物帰りのお婆さん、皆、暑さに顔をしかめている。 「......」 見知らぬ人達なんだから私の気なんて知る筈もない、当たり前だ。 だけど、そんな当たり前の事ですら、今は何だか寂しくて、途方もない孤独を感じた。
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