746人が本棚に入れています
本棚に追加
フライング気味で歩き出した年上カップル。
信号が青に変わると、若い母親とお婆さんも歩き出し、後ろで待っていた人達も一斉に動き出す。
さっきまで隣にいたのに、どんどん遠くなっていく。
私は何故かそこから動けなくなってしまい、呆然と目の前を見ることしかできない。
髪を揺らす空っ風は、心に空いたポッカリ穴を吹き抜け、更に深い深い孤独へと私を陥(おとしい)れる。
聞こえている街の雑踏は全てどこか遠くでぼんやりと鳴っているように感じ始め、やがて、信号が点滅を開始、再び赤になった。
力が入らない、腕もお腹も足も全部。
もう立っているのにも疲れた、そう思って視線を信号から下げた時、ポケットに入れたスマホが震えた。
“生きてるかー?”
画面上に出る杏奈からのメッセージ。
脆い心にはダメージが大きすぎて、すぐに視界が滲んでくる。
なんでこんなタイミング?
奇跡としか言いようがないんだけど......、ごめん今は返事できない。
だって、だって......、あ、あぁ、ダメだもう我慢できない。
鼻の奥にツン、とした痛み。数秒後、ポロ、と一粒、涙が溢れた。
「グスッ」
力を抜くように、ストン、と屈み、膝を抱える様な姿勢で顔を真下に向ける。
目を瞑るけど、涙の勢いは止まらない。
最初のコメントを投稿しよう!