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ドキン、と心臓は跳ねる。
呆気にとられ、涙など忘れていると、シンはスッと立ち上がり、眩しい太陽と重なって顔が見えなくなってしまった。
途端、耳に入ってくる雑踏と、遮断するものが無くなった視界に飛び込んでくる沢山の人。
分かり易いチラ見でクスクス笑われている。
私も立ち上がったけど、恥ずかしさから目のやり場に困り、俯く。
「......休み、ないんだろ。
厨房のシフト表、全部出勤になってたし」
改めて目の前の彼を見ると、持っている黒い日傘が凄く似合っていて、だけど足元は七分丈の黒ジーンズに白いサンダル、顔はいつもの寝不足面。
なんだか疲れた仙人のように見え、ついさっきまでとは別人のように思えた。
「まぁ、はい」
先週来た時、そういえばキッチンの中を見回してたな、その時に知ったんだ多分。
「......つから?」
「へ?」
横切った車の音と被って聞き取れなかった、顔を傾けて聞き直す。
「い、つ、から?」
い、を強調して言い直したシン。かなり面倒くさそうな顔になってしまった。
さっきは優しかったのに.....、この数秒での変貌ぶりも信じられない。
片手をポケットに入れたままのシンに、
「先週の月曜日だから、今日で14連勤、です」
と素直に報告した瞬間、一瞬、無視されたかと思うくらい、即座にクルリと身を翻し、お店の方へと歩き出す。
「あ、え、どこ行くんですか」
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