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サボテン男と、僕と。【前編】
――七日と数時間。
彼がこの世に生まれてから、そのぐらいの時間が経っていた。
「ミズキちゃん。悪いけどベランダの花に水あげといて貰っていいかしら?」
和室でだらだらと寝っころがりながら扇風機の前を独占していれば、祖母がひょっこりと入口から顔を出し、僕を呼んできた。
祖母はいつも、僕のことを『ミズキちゃん』と呼ぶ。けど、僕の性別は男だし、小学六年生になった現在では、『ちゃん』付けで呼ばれるのはどうにもむずがゆさを覚えて仕方なかった。
「ちゃんじゃないよ、ばあちゃん」と言いながら、僕は立ち上がった。
パンパンと、服についていたホコリなどを払っていると、半ズボンから出ている素肌の場所にいくらか畳の跡がついているのが目に入った。
「あら、ごめんなさいねぇ、ミズキちゃん」
ニコニコと、顔のシワを濃くしながらいつものように笑みを浮かべて謝る祖母に「だから、」と僕は口を開きかけたが、一瞬考えた後に首を横に振り、和室の南側にある窓へと近づいた。
「ジョウロは、そこにある黄色いのを使ってねぇ。青い方は駄目よ?」
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