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「こないだ壊れちゃったの」と言う祖母に、なんとも言えない気分になりながら、僕は「わかったよ」と返して、窓を開けた。
「っ」
むわっとした、呼吸がしづらい真夏の暑い空気が、一気に窓から室内に流れ込んできた。どこで鳴いているのか、うるさいぐらいのセミの声も僕の耳に響き渡った。一層強く暑さを感じながらも、僕はなんとか気力を振り絞って外へと踏み出した。
じゃりっと音を立てて、綺麗に並べて置かれているスリッパに足を通す。僕の足のサイズには合わないぶかぶかのそれを引きずるようにして歩きながら、そんなに広くはない――人が二人入れば窮屈になるであろう――広さのベランダ内に置かれているジョウロを探す。
と、そのときだった。
『言わねぇんだ』
聞き慣れた、同時に聞きたくもない声が僕の耳に届いた。
ピクリと、僕は肩をゆらして足を止めた。
後ろから、自身の背中に向かってつき刺さってくる視線を感じた。痛くはないが、どこか痛かゆく感じるそれに、少し迷ったものの、僕は無視を決め込んで再びジョウロを探し始めた。
『なんだよぉ、無視かよぉ』
低めではあるが、決して低すぎない若い男性の声が、再び僕の耳に届く。
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