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けど、それすらも無視してジョウロを探せば、室外機の影に落ちているのが見えた。青、黄色、どちらの色もベランダの手すりの柱の部分と室外機の間の隙間に重なるようにして落ちていた。
それを引っ張り出し、ついてしまった汚れを払う。青から引っ張り出して払っていると、再びあの声が僕の耳についた。
『それ、壊れてないのになぁ』
「……」
『言わねぇんだ』
「……うるさい」
たえられなくなり、ジョウロを持ったまま僕は振り返った。
(――……いつもこうだ)
無視をするつもりが、結局こうなる。
振り返った先には、木製の二段式の小さな花台が、ベランダの壁際に合わせるようにしてピッタリと置かれていた。
色とりどりの花が並べられている花台――その前に、彼はいた。
『おっ、振り向いた』
緑色の短く散切りされた髪、鋭く細い緑色の目がよく目立つ彫りの深い整った顔立ち、少しダボっとした白の半袖のTシャツに、まるで本物の土のような色をした茶色い半ズボン――さらされている肌をこんがりと焼けており、まるで海水浴帰りの人間のように見える。
そんな姿の男が一人、ニヤニヤと笑みを浮かべながらその場であぐらを掻いて座っていた。
『相変わらずのいい子だな、お前』
「じゃま」
会話を続ける気はなかった。
黄色いジョウロを手に取り、花台の前を陣取る男を足蹴りすれば、『痛っ』と男が声をあげた。
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