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この男が姿を現したのは、今から一週間前――僕が祖母の家で過ごすようになって、二週間が経った頃の事だった。
その日、僕のサボテンに花が咲いた。
このサボテンは僕の宝物だった。こいつにはなんでも話せるし、悩み事も秘密も全部打ち明けられた。僕には友達という友達がいなかったので、僕にとっての友達はコイツだった。
だから祖母の家に行くときも、絶対にコイツだけは持って行こうと決めていた。そのときすでに、サボテンには赤いつぼみが一つついていた。
サボテンの花というものは、まれにしか咲かないものだと聞いていた僕は、咲くのが楽しみだったし、咲いたときは本当に感動した。大喜びをする僕を見て、祖母もまるで自分のように喜んでくれた。
咲いたその日、僕はずっとその花を見ていた。飽きるという言葉はそのとき僕の中にはなく、いつまでもそうしていたいとさえ思っていた。
が、そのときだ。
あの男が姿を現したのは。
『そんなずっと見てるなよなぁ。照れんだろう』
聞こえてきた声にハッとして瞬きをした瞬間、僕の目の前からサボテンが姿を消し、代わりにそこには見知らぬ男の姿があった。
『よぉ』
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