3人が本棚に入れています
本棚に追加
驚き目を見開く僕の顔を、乗っていた花台から降りた男がのぞきき込むようにして二つの緑の瞳をこちらに近づけてきた。
そのあまりの近さに、紙パックのジュースを落としかけながらも震える声で誰なのかと男に問えば、男は一瞬キョトンとした後、ニヤリと笑って自身の身体を指さした。
『え』
瞬きを一回――瞬間、男の姿はどこにもなく、代わりに先程花台の上にあった筈のサボテンが、きれいにベランダの床に置かれていた。
そんな、いや、まさか――……
口をポカーンと開けながら瞬きをすれば、再びそこには男の姿が。
ニヤニヤと笑い続ける男を見続けながら、僕は男の正体がサボテンであることを悟ったのだった。
『結局、ちゃんと黄色でやんのか。つまんねぇの』
「……お前を面白がらせる為にやってるわけじゃないから」
『なんでぇ、つれねぇの』
僕がジョウロを傾けると、シャー……と音を立てながら先の方から沢山の水が何本もの筋となって花の上に降り注がれていく。
その様子に目を真っ直ぐ向けたままぶっきらぼうに言葉返せば、『ちぇー』と一番上の段の端に腰をかけていた男が、口を尖らせながら足をぶらつかせた。先程の僕の手のように、下の段の花達が綺麗に男の足をすり抜けて行くその光景に、思わず眉間にシワが寄る。
『あーあ……前はもっと色んなこと話してくれたのになぁ』
最初のコメントを投稿しよう!