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私は彼を見送った。「一緒に帰ろう」と誘うのはとても難しい。ボロが出てしまうかもしれない、そう考えてしまうとさすがに一歩引いてしまうのだ。それでも、いつかは一緒に帰りたいと思ってしまう。私は我儘なのだと自覚する。やはり、私は嘘を吐いていないと彼の傍にいることが出来ない。こんな醜い私を彼には見せたくないと切に願う。
私も一人で帰る。一人だから、不真面目に買い食いをして帰る。昔彼がおいしそうに食べているのを見たから。お肉屋さんのメンチカツ、無類の味だ。
ある日の放課後、私は彼と二人でいつものように掃除をしていた。会話はない。普段もあまり私たちはおしゃべりをしているわけではないが、今日は静かすぎる。私から話しかけようにも、彼の複雑な表情がそれを躊躇させる。どうしたのだろうか、何か悩みでもあるのだろうか。
そうであるならば、その悩みを聞いて力になりたい。こう思うのは、私が彼に好意を持っているからだろうか、それとも「悩みを聞く人」が彼に好印象を与えると考えているからだろうか。嘘吐きな私だ、きっと後者だろう。自分がまた嫌になる。
私も彼も気がそぞろだ。集中できないままに、太陽も沈み始めている。今日の時間はここまでだ。
箒を片づけようと思った矢先、彼が口を開いた。
「話しておきたいことがある。いつか言わなくちゃって思っていた」
少し驚いた。私が知っている彼ならば、隠し事などしそうにないからだ。よほどに言い難いことなのだろうか。しかし、だから今日の彼は様子がおかしかったのかと、納得もした。
「僕は君が好きだ」
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