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すごく驚いた。しかし、とても嬉しいことのはずなのに、素直には喜べない。私には後ろめたい嘘があるから、彼に嘘を吐いているから。
彼は話し続ける。
「君が好きだから、正直に話さなければいけないことがある」
「僕はあまり、人に褒められるような人間じゃあない」
どういうことだろうか。私が知る彼は仁徳にあふれる人間なのだが。
「昔、僕がごみを拾ったとき、君と目が合った。君は微笑んでいた」
私も覚えている。いい人なのだな、格好いい人間なのだなと思ったのはその時からだ。
「もう一度、あんな風に笑ってほしかった。だから僕は、正直に、誠実に生きようとしているんだ」
「君が見ているから、一緒にいるから掃除をする」
「君の気が引きたいから。僕は自分にも、君にも嘘を吐いていたんだ
私は何だか可笑しくなってきてしまった。思わず、声を出して笑ってしまう。
「どうしたの? 僕が君を好きなことがそんなに面白い?」
彼は不安げな顔で私にそう尋ねる。私は笑いを抑えながら、どうにか答える。
「ごめんね、そういう、ことじゃないの」
「なんだか私たちがすごく似た者同士だったから」
彼はきょとんとしている。それもまた可笑しかった。
なんてことはない。私たちは二人ともただの嘘吐きだったのだ。いや、彼はそれでも正直者だろう、思いと嘘を全て吐露してくれたのだから。
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