旅行

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「花香さんは行きたいところはなかと?」  彼の実家に行った時に義母から尋ねられた。 「旅行ですか?」 「そうそう」  去年、義両親と両親は一緒にドイツに行った。自分たちだけ行って、申し訳ないと思っているのかもしれない。 「うーん。主人の仕事が忙しいですからね。コロナもありますし」 「そうよねえ。まあ、今年は無理よね。それにあの子の仕事が忙しいうちは行けないかもしれんけど、行きたいとこはなかとね?」 「北海道は行ってみたいですね」 「海外は?」 「バチカンくらいかなあ。後は留学した北京」 「ドイツも良かったよ〜。私、花香さんにも楽しんでもらいたか〜」  義母はこう言ってくれる。けど、私は海外は無理な気がしている。私の病気からして、毎日予定が入っているなんてことは難しい。両親がよく海外に行っていたが、その予定表を見るだけでうんざりしてしまった記憶がある。 「近場の温泉ぐらいで十分ですよ」 「欲がなかね〜」  私の毎日は、バイトが入っていない時は一人だけれど、バイトの時は彼と同じ空間にいるし、彼の休日出勤の時には一緒についていける。彼と過ごす時間はたぶん普通の夫婦より長い。それだけでも十分な気がするのだ。何より、私を生活させるために、彼がどんな風に働いているかを見ることができる。それはどんなことより心に染みる。彼は働いている時、いつもきつそうだ。でも、私と目が合うと変顔をわざとしてくれたりする。時々、「頑張ってるな」と頭ぽんぽんをしてくれる。彼の方が頑張ってるのに。 「究極は、主人といれればそれで良いので、旅行はそこまでは興味はないんです」 「花香さんみたいな人も珍しかね。ごちそうさま」  子供がいたら、子供をどこかに連れて行ってあげたいと私も思っただろう。でも、うちは二人だ。当分はこれでいいかな。彼が退職した後にゆっくり温泉にでもいければ。  家で一緒にに映画を見るのだけでも十分楽しい。そういう意味ではうちはコロナの影響を全然受けていない夫婦かもしれない。
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