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「政権がククリット王家に戻ったとして、簡単に平和が戻るとは限りません。むしろ、そこからが大変なのですよ。今でも軍部と王直属軍が何度も衝突を繰り返している。王権が戻っても、制圧という名の軍事行動は終わらない。押さえ方を間違えばすぐにクーデターの再発です。それほどに危険な状態なのです。外国人が渡航できるようになるまではまだまだ時間がかかる。そのようなところへは、例えあなたの先輩が行きたいと言っても止めます。和泉さん、あなたがジャーナリストではない素人だから止めているのではないんですよ」
ネットで情報を集めている栞には、それは正論だとすぐにわかった。
しかし勢い込んでやってきただけに、落胆は大きかった。
「力になれなくてごめんね、栞。あと、ストックフォトをやってる会社で、多少無理しても個人で入国する人を知ってるけど」
「おい、余計なことをいうな」
「すみません」
理恵子は舌を出した。
「いいんです。ありがとうございます、理恵子先輩。ちょっと急ぎすぎました。でもなにかしないではいられなくて」
「気が急くのはわかります。今はあなたにできることで準備されてはどうですか。来たるべきその日が来るまで」
松本の声は、栞の心の奥までよく響いた。
「それから、日浦。お前が彼女をサラベナに行かせたいのはわかるけど、危ないことに巻き込むんじゃないぞ」
「理恵子先輩がわたしを行かせたがってる?」
「そうです、さっき話してくれたサラベナ王子の話、あれを記事にしたいんだと。ネタにされようとしているんですよ、あなたは」
「あー、もう言わないでくださいよ」
理恵子は大きく腕を振って、松本を制した。
栞は思わず額に手をやった。
そういえば最初からそんなことを言っていたっけ。
「大丈夫です。こんな人って知ってますから」
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