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駅から15分ほど歩き、大きな門の前に立った。
あれから一年以上がたった。
ついこの間のような気がするのに、いろいろ大きく変わった。
「あら! あなたが栞さん?!」
突然頭の上から高い声が降ってきた。
見上げると門の上に張り出した松を剪定している女性がいた。
「こんなところからごめんなさい。ちょと待っててね。お母さん! 栞さん!」
夏枝は松の葉の中に消えていき、すぐに門のところまで出迎えた。
背は高く、伸びっぱなしのショートカットに日に焼けた顔。
ジャージの上下に大きな苅込鋏。
ああ、そういえば、目元が喬久に似ている。
「はじめまして。和泉栞です」
「はじめまして。林夏枝です。でも、この家は初めてじゃないんでしょ、早く入って。おかーさん!」
玄関の三和土をどかどかと上がり、床の間の部屋に通した。
そこには、久しぶりに会う志津子の姿があった。
着物ではなく、あっさりとしたワンピースだった。
「うるっさいねえ。栞さん、ごめんなさいね、こんながさつな子で。はやく、座布団、そっちじゃない、赤い来客用の。それそれ」
一年前に訪れた林家とは、随分感じが違う。
静謐な、現実とは隔絶した世界。
同じ場所なのにいる人が違うだけで、こんなにもかわるのだ。
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