39人が本棚に入れています
本棚に追加
だが一度血に塗れた手で、もう一度栞を抱きしめることがいいことなのかわからない。
栞に会いたい。
けれど、今のわたしになにができるだろう。
最後の署名はカイトの名前のみ。
ひどく惑乱した、問いばかりが連ねられた文章だった。
「リー将軍は処刑されたとニュースで聞きましたが、彼は銃殺だと」
夏枝は答えた。
「わたしもその場にいたのではないので、詳しいことはわからないけど、正規の裁判手続きを経ず、身柄拘束後即銃殺を行ったと、喬久が言っていたわ」
両親を殺されているのだから、その怒りは想像できなくはない。
しかし怒りに身を任せて銃殺したのだとしたら。
彼のやさしさはそのことを受け入れられないのだろう。
「わたし、サラベナに行きます」
夏枝と志津子を見つめて、栞はそう言った。
栞の決心を受け取った夏枝は、すぐに喬久に連絡を、と席を立った。
「栞さん」
残った志津子が呼びかけた。
ひどく気づかわし気な声だった。
「これがどういうことか、わかってますね」
「どういうことかというと?」
自分の決心に高揚していた栞は志津子の言っていることがわからなかった。
「殿下は将軍を銃殺している。もしかしたら自分の手で」
「それは……」
最初のコメントを投稿しよう!