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「あの国の状況を考えれば、ないことではないですよ。わたしにとっては、リー将軍に自分の姉の息子を殺されているわけだから、その気持ち、復讐心を理解できる。けれど、あなたにとっては縁もゆかりもない人よ。あなたはよくても、あなたのご両親はどう思うでしょう」
これが日本で、個人の復讐心で起こした殺人なら。
当然、彼は殺人犯だ。
本当はリー将軍の方に正当なクーデターの理由があったのかもしれない。
暴君は先代の王の方だったかも。
でも、喬久は彼の正義を信じていた。
そして栞は、喬久を信じていた。
何より短い間だったが、一緒にいたカイトの人となりは信じるに足るものではなかったか。
だからこそあの日の彼の願いを受け入れたのではなかったか。
スマートフォンを手にした夏枝が、襖を開けて座敷に戻ってきた。
栞は志津子に向き直った。
「今、カイトさんが会えないと言うのは、彼が彼自身を信じられなくなっているからだと思うのです。それならば、わたしは一刻も早く彼に会って、彼を信じていると、わたしが彼を信じていると、言わなければならないのです」
それを聞いた志津子は深く溜息をついた。
「あいかわらず強情な質ねえ」
志津子は夏枝を振り返った。
「見てごらん、夏枝。前に会った時から思っていたけど、こういうところが姉によく似ているのよ。姉でもきっと同じことをしたでしょう。このこは確かにあの殿下の孫が選んだ人ね」
夏枝は、襖に寄り掛かったまま、ゆっくりと手を叩いた。
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