老婆の顔

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その年のお盆、私は三年ぶりに帰省することになった。実は社会人になって一度も帰っていなかったのだ。さすがにまずいなとは思っていた。そんな折、母から電話があり叱咤され帰省することにした。 私には二歳下の妹がいて、彼女もまた私と同様に東京で働いていた。なのでこの際、一緒に里帰りをしようということになった。 場所は電車で一時間半、駅から五分程で着く所にあった。久しぶりの実家はその家独特の匂いがして懐かしさを感じた。 因みに家は平家で築四十年以上とかなり年季が入ってる。 さっそく居間で三人で会話をして時間を過ごした。気づけば空は赤くだいぶ日が落ちていた。 もう少しすると父が仕事から帰ってくると母は言い、その間に夕飯の支度をすると台所へ向かった。 久しぶりに家族で食事をした。他愛もない会話をしていたので何を話したかはあまり覚えてない。時計を見るといつの間にか深夜一時を回っていた。母に促され、お風呂に入り用意してくれた布団で眠った。 どれくらいの時間がたっただろう。ふと目が覚めた。右を向くと妹と母が寝ている。何気なく母の方に目をやると胸の辺りにゆらゆらと黒い影が動いていた。 変だなと思い目線を上の方にやると、何かいる。暗くて見辛いが、そこには大きな丸い形をしたモノが宙に浮いてた。もっと見えやすい様に寝たまま体勢を母の方に傾け、目を凝らし確認しようとした。 次の瞬間、一気に冷や汗が出て全身が冷えていくのが分かった。 顔だ。それも一メートルは余裕である大きな顔。あまりの恐怖で体が動かせなくなっているのに気づいた。すると何故だかさっきまで見辛かったモノが、はっきりと分かるようになった。表情がわかる程に。 それはシワシワの老婆の顔で、目を互い違いにギョロギョロと奇妙な動きをさせていた。そして口がゆっくり開き「オォォォォ」と低く嗄れた声を出した。音は大きくなかったが、怖すぎるその声に鳥肌を立て、強く固く目を瞑った。 (早く居なくなってよ!)とひたすら心なかで願った。 気づくと朝になっており、いつの間にか寝ていたようだ。母も妹も既に起床していて布団はもぬけの殻だった。私は昨夜の事が気になり、母にちゃんと眠れたか尋ねると熟睡だったらしい。 あの夜以降、老婆の顔は現れなかった。結局あれは何だったのか分からないまま実家を後にした。
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