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珍しく家の電話が鳴った。
『母ちゃんゴメン』
それは息子の口癖だった。
私は本当の息子だと思い込み名前を呼んでいた。
その詐欺は其処から始まったのだ。
『携帯の番号が変わったんだ。悪いけどこれから言う番号に電話してくれない』
その後私は息子の振りをした振り込め詐欺の犯人に電話することになる。
『携帯をトイレに落として汚いから洗ったら壊れてメモリーも壊れて……番号をそのまま受け継ぐと8万円掛かるけど、新規なら2万円だっていうから……』
男性は携帯が変わった訳を話してくれた。
「何番だね?」
男性が言った番号を読み上げる。
『違うよ。何番だよ』
すると男性はそう言った。
『悪いけどその電話番号に掛けてくれない?」
私は息子と名乗る男性の言った通りそれに掛けてしまった。
「父ちゃんには内緒にしておいてね。喉が痛くて咳が出るけど、日曜日だから病院に行けないんだ。開いている薬局といい薬知らない?」
その言葉で時間を確認すると8時は過ぎていた。
「喉に直接掛けるスプレーがあるよ」
私はその時間でも開いている大手薬局の名前を教えた後でそう言った。
『ありがとう。明日病院に行くけど、父ちゃんが心配するから言わないでね。会社でマイコプラズマ肺炎が流行っていて、感染していたら会社をクビになるかも知れないんだ』
息子と名乗る男性が電話を切った後で、その番号を息子の名前で新規登録した。
マイコプラズマ肺炎ではないけど、金属の粉を扱っている会社で、肺に入って病気になったら会社を辞めなくてはいけなくなると本人から聞いていた。
『父ちゃんが心配するから言わないでね』
も本人は言っている。
だから私は余計に信用してしまったのかも知れない。
「トイレに落として携帯が壊れての電話番号が変わったんだって」
私は主人にそう言ってメモを渡した。
。
「帰って来たら電話番号を入れてもらうから今はいい」
主人はそう言った。
そう確かにその時息子は外出していた。
本来なら仕事で家に居ない時間だった。
でも今日は休みらしく夜出掛けて行ったのだ。
携帯の電話番号が変わった。
それが振り込め詐欺の手口だと百も承知だ。
それなら何故詐欺だと気付かなかったのか?
それは私の息子の特徴そのものの話し方だったからなのだ。
また運悪く、息子は家に居なかったのだ。
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