14人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、新たな何かに生まれ変わるとして、一体何者になれるというのだ?
この血塗られた手で人を殺す事しか能が無く。それ以外では限り無く無力で、何の取り柄も無い自分が。
そう深く思い悩む麻理亜であるが、その瞳にはもう、オペレーション・ブラッディトマト以降常態化していた絶望の色は無い。
ただ、どうしようも無い哀しみの色があるだけだ。
「………戦う事が今までの私の存在理由だった。
なら、戦わない事が新たな私の存在理由となるのだろうけど………」
ふと天啓の様に浮かんだ解決策は、先のオペレーション・ブラッディトマトで信念が崩壊してるとは言え、それでも今までの人生を全否定する物だった。
それに何より。それを選ぶ事はコンゴでの誓いや想いを裏切る事になると、麻理亜の胸が激しく痛み始める。
もう自分の口に銃を突っ込む考えは失せたが、それでもこんなに思い悩むより、戦場で命懸けでドンパチやって方が遥かに楽だ。
でももう。それは許され無いし、新たな何かに生まれ変わるのであれば、あのコンゴでの出来事に向き合い折り合いを付けるしか無い。
「………ある意味、あそこでも私は生まれ変わったとも言える訳だから…」
血の様な夕陽の色と、激しい銃撃の音を伴い、浮かび上がる二つの笑顔。
「ムル………それにカイト………」
懐かしい二人の顔を脳裏に浮かべつつ、麻理亜が過去と向き合い始める中。
窓の外の雨は激しさを増し、夜空に走る稲光が世界を白光化させた後、“ごう”と唸りを上げ窓ガラスを激しく揺らした。
最初のコメントを投稿しよう!