1. the mercenary

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 歩哨はこちらに気付く事も無いまま、相変わらずうろうろと歩き回っている。  銃を手に保持する事も無く、肩にぶら下げたまま歩く姿は最早散歩と言って良く、今まさに歩哨は麻理亜達が潜む茂みの前を通り過ぎようとしていた。  相対距離はおよそ2メートル。 「銃を保持しなかった事が仇になったわね」  襲撃に移るまで最短3秒。最悪、歩哨がそれに気付いたとしても、もう遅い。  動くべき手順を頭にイメージした麻理亜は、ナイフを逆手に呼吸を整えた後、潜んでいた茂みから飛び出した。  《ザサッ》と葉擦れの音が響き、一瞬歩哨の動きが止まる。  リチャードも唖然とする程の一瞬で、歩哨の背後に組み付いた麻理亜は、歩哨の首筋にナイフの切っ先を突き付けた。 「動くと死ぬわよ? 大声を出してもね。 解ったら無言で頷いて」  抑揚の無い麻理亜の冷えた声に、歩哨は無言で頷いた。 「中に居るのは何人?」  そう問い掛けつつ麻理亜は、歩哨の喉元に突きつけた切っ先の圧を強めた。 「…10人だ」  全身を瘧の様に震わせ告げた歩哨の答えに、麻理亜は無言で頷く。  訊きたい事は訊き終えた。後はこの歩哨をどうするかである。  後ろを振り返りリチャードに指示を請いたい衝動に駆られるが、それは甘えでしかないと気付いた麻理亜は、自分で歩哨の処遇を決める事とした。  決めたらやる。それが出来ない様であれば前線に出る資格は無い。 「質問に答えてくれてありがとう…」    歩哨の背後で小さく囁いた麻理亜は、喉元に突きつけたナイフで歩哨の頚動脈を掻き切った。 「うぶッ……………」  ぴゅうっと音を立て、歩哨の首筋から鮮血が迸り、その断末魔が響かぬ様、麻理亜はナイフの切っ先を咽頭部へと突き刺した。 「………」  程なく歩哨は事切れ地面へとくずおれ、その姿をじっと見つめる麻理亜の瞳は、刺す様な冷気と激しく燃え盛る炎の様な、相反する強烈な感情を宿していた。  歩哨の喉元から抜いたナイフは赤黒い血で濡れ、それを見る麻理亜の瞼の端は、うっすらと泪で濡れていた。  
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