2. Godless Land

2/18
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
【その夜】  石造りの暖炉の中、パチリと音を立てて薪が爆ぜ、揺らめく炎の勢いが俄に増した。  降りしきる雨に打たれ続けて、冷えきった躰を暖炉で温めながら麻理亜は、静かに燃える炎をじっと見つめていた。  ソフィアの死により贖罪の道は永遠に閉ざされた。  なのに、その原因を作った自分はのうのうと生きていて、それが許せなくて仕方ないのに、それをどうする事も出来ないのが死ぬ程辛い。  なら、死ねばいい。  既に死の恐怖など戦場に捨ててきたし、その方法なら幾らでも知ってるし、つい最近まで殺戮天使と呼ばれてもいたのに…    何故、自分を終わらせる事が出来ないのだと、麻理亜はぐっと拳を握り締めた。  爪が皮膚を裂き、流れ落ちた血が床に小さく広がって行く。 「この程度じゃない。私が歩んで来た血塗られた日々は…」  そう呟いた麻理亜の絶望に濡れた瞳に、激烈な光が浮かび上がる。  かつて戦場に立つ前、ゲイリーが贈ってくれた言葉がある。 《後は戦場で学べ。 殺し殺される現実。命の儚さと強さ。希望と絶望の意味。 そして…生きろ。己の魂を守り抜き、誰かを護る力となる為に》  その言葉があったからこそ、その想いを貫き通したからこそ、紛争地域や内戦地域の惨状を知って尚、正気を保てたのではないのか?  だからこそ、守り切れなかった命を魂に刻んで生きて来たのではないのか?  弱者が駆逐される現実への怒り。  戦いを強いられる現実への悲しみ。  この手が。この躰が。どれだけ血塗られようとも決して失わなかった信念は、結局のところ紛い物にすぎなかったのか? 「違う…絶対に」  ソフィアを死に追いやった事実は、自分が死ぬまで消えないし、永遠に自分を苛み続けるのかも知れない。  だがそれでも生き続けなければならない。    失われた多くの命の為に。  握り締めた拳の間から、流れ出る血の感触を噛み締めつつ、揺らめく炎を見つめ続ける麻理亜の意識は、再び戦場へと還って行った。  
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!