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【2008年10月 ウェールズ】
暖炉の中の揺らめく炎を見つめながら、戦いの日々の記憶を辿っていた麻理亜は、過去への旅を終えふうっと深く息を吐いた。
あのシエラレオネでの戦いの後、ボットの念願だった学校が建設される事となり、今年の夏に無事開校を迎えたという。
それを聞いたのは、ソマリア沖でのタンカー警護の任務に就く中だったと思うが、それすらも忘れる程に、転戦に継ぐ転戦の日々を送っていたのだと今初めて解った気がした。
シエラレオネでの戦いの後、お隣のリベリア、それから中央アフリカへと舞台を移し、コンゴでは……と、そこで思考が止まった麻理亜の瞳が僅かに揺れる。
先のトムの様に守れた命もあれば、守れ無かった命もあるが、だからこそそれに囚われ過ぎれば任務に支障を来すと、戦場で感じる感情の揺らぎは魂の奥底に刻んできたつもりだが………
住み慣れた家という、何よりも安心出来る環境が引き金となって、封じ込めてきたつもりの諸々の感情が胸の中に溢れてくる。
誰かを生かす為に誰かを殺す。それが矛盾だと解っていても、戦場での迷いは自分や仲間を殺す。
それが戦場での理とはいえ、銃後の平和の中ではそれが如何に異常な事態であるかが良く解る。
「殺戮天使と呼ばれた私だからこそ、それが良く解る」
そんな呻きにも似た囁きが麻理亜の唇から漏れる中、“ごう”と雷の音が轟き窓ガラスを揺らした。
常に麻理亜が行く所に死があった。
敵にせよ、守るべき非戦闘員にせよ、そしてそこで戦う自分にせよ。
それが最早異常とも思わぬままに戦い続けて来たが、自分が与えた死から生まれる絶望を、ガディンとソフィアの末路を目の当たりにし、これでもかと思い知らされた今。
シエラレオネでの戦いで、小さな天使から殺戮天使へと生まれ変わったように、新たな何かに生まれ変わるべき時が来たのだろうと思う。
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