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悲哀に満ちた幻聴は凶器と化し、今まで数多の戦いで培ってきた信念を木っ端微塵に打ち砕いていく。
《何故、彼を殺したの?》
その問いが、虚ろに立ち尽くす麻理亜を更に追い込み、不可視の血飛沫を上げ続ける麻理亜の心は、程なく壊れた。
そうして空虚となった心は、深い絶望で埋め尽くされ始め、それから逃げるように麻理亜は空を見つめた。
秋晴れの空は眩しい程に蒼く輝き、突然の凶事に驚いた誰かが手放したのだろう、桃色の風船がふわふわと空を漂う姿が見えた。
それは天へと還る魂の姿のように見えた。
非業の死を遂げたガディンの魂。悲嘆の底に突き落とされた恋人の魂。
そして、その元凶たる私の魂。
滲む視界に映る空は、死に逝く心に救いを与え賜う事は無く、一片の曇り無き光は、虚ろに立ち尽くす麻理亜を無慈悲に焼き尽くすかのようだった。
それでも麻理亜は、何かに憑かれたかの様に、ただ空を見つめ続けていた。
今まで、戦い殺し合い続けた日々を反芻するかのように。
遥か高空へと昇り詰めていく風船の様に、麻理亜の心も、ここでは無い何処かへと旅立っていた。
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