5人が本棚に入れています
本棚に追加
波は静かに揺れる。
八月も終盤に差し掛かり、季節は秋を彷彿とさせる。
山々の緑がもうすぐ色を変えるというのに、私は海を眺めている。
夏の日差しが照りつける頃には賑わった砂浜も、時期が過ぎれば閑散とする。
寂しくもあり、それが風情を感じさせることもある。
私はこの時期の海をそう思う。
年の離れた兄がいる。
六歳年上の兄だ。
腹違いの兄弟。母が十六歳で産んだ子供。
誰の子かはわからないらしい。
無論、私も誰の子かは知らない。
兄は不遇だった。
父親のいない家庭を支えるために中卒で仕事をした。
昼夜を問わず働き続けた体は悲鳴を上げ、過労により十七歳で息を引き取った。
疲れを感じることがないまま、この世を去ったのだ。
不遇ではあったが、私にとっては好都合だった。
兄は私を暴力で制圧していた。
とはいっても、顔などに拳を振るうことはなかった。
いつも見えないところばかりを狙った。
幼い身体には青々しく痣が点々とできていた。
最初のコメントを投稿しよう!