流れに任せ

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波は静かに揺れる。 八月も終盤に差し掛かり、季節は秋を彷彿とさせる。 山々の緑がもうすぐ色を変えるというのに、私は海を眺めている。 夏の日差しが照りつける頃には賑わった砂浜も、時期が過ぎれば閑散とする。 寂しくもあり、それが風情を感じさせることもある。 私はこの時期の海をそう思う。 年の離れた兄がいる。 六歳年上の兄だ。 腹違いの兄弟。母が十六歳で産んだ子供。 誰の子かはわからないらしい。 無論、私も誰の子かは知らない。 兄は不遇だった。 父親のいない家庭を支えるために中卒で仕事をした。 昼夜を問わず働き続けた体は悲鳴を上げ、過労により十七歳で息を引き取った。 疲れを感じることがないまま、この世を去ったのだ。 不遇ではあったが、私にとっては好都合だった。 兄は私を暴力で制圧していた。 とはいっても、顔などに拳を振るうことはなかった。 いつも見えないところばかりを狙った。 幼い身体には青々しく痣が点々とできていた。
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