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母になぜ働くのかを聞いたことがある。
母は、好きだからよ。好きなことで生きれるのは本望じゃない?
そう言った。
母は私を何度も悲しくさせる。
兄が痩せ細ってきたのは死ぬ半年前。
ご飯にも手をつけなくなり、私は存分に母のおかずを食べながら、ご飯を喰らうことができた。
このまま兄が死ぬとは思っていなかったが、死んでもいい存在ではあった。
母はある日、朝帰りで男を連れてきた。
古ぼけた狭いアパートの中に身体の大きな男を。
「君が春菜ちゃんか。お母さんに似て美人だね」
その人が私に初めて話した言葉だった。
ドスの効いた低い声。風貌も相まってヤクザのようだった。しかし甘さも感じる声だった。
その人は一回きりでしばらくアパートに来なかった。
その人がアパートに来なくなってから半年後、朝になっても起きて来ない兄は冷たく固まっていた。
目を閉じたままの兄はただ寝ているだけのようだった。
葬儀と言えるほどの葬儀はなく、兄は小さな火葬場で細かく、軽くなった。
そこで兄が本当に死んだことを自覚した。
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