61人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも違和感はぬぐえなかった。
何故なら、他の死人はその外観にある[死人らしさ]――先にも触れたとおり、右側入り口付近で黄昏れているものは頭から無駄に血を流し、また、左斜めボックス席の窓から手を出しつつ凭れるものは長い間埋められていたのか腐敗しており、そして正面に座る老人は葬式の直後なのか、白装束に三角頭巾を身に着けている――など、どう見ても死人にしか見えない特徴を持っていた。そう言えば、既に実体を失っているのか、透き通った幽霊もいた。
しかし、俺の身体には何の跡もない。
トラックにはねられた外傷もなければ、頭を打ったときの瘤もない。当然ながら、さっきから手洗いの順番待ちをしている奴のような、包丁が刺さったままと云うこともない。
そう、俺には、死因に繋がる傷跡のようなものが何一つ無かったのだ。
それでも、特に何も感じない。
ここにいるという時点で、死んだも同じなのだから。
――どうせだったら、グリーン車に乗れば良かった。
俺は呑気にも、そんなことを考えた。折角あの世とやらに行くのであれば、せめてゆったりとリクライニングの効く椅子でリラックスしたかった。
そんなものが有るかどうか、確かめてはいないが。
そんな想いに関係なく、列車は進む。
時折、何処かの駅に停車するが、その殆どが何処かの霊園前、あるいは寺院の類だった。
停まる度に死者が乗り、そのたびに、列車は読経の合掌に見送られた……
最初のコメントを投稿しよう!