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ただ、あれだけ死者が乗り込んだはずなのに、列車の中は再び閑散となった。
「切符を拝見いたします」
どこから現われたのだろうか、車掌と思われる、真っ黒い影のような男が制服を着て立っていた。
俺は試しに、乗り換えについて訪ねてみた。
「……ごさいません。この列車は、生ある世界から死後の世界へと続く片道のみのダイヤとなっております。もう、目的地に着くまでは降りることも叶いませんし、これまで臨時列車を走らせたこともありませんので、あしからず……」
丁寧な口調ではあるが、黒い車掌がこちらを威圧するように重く、はっきりと告げ、その後、俺の切符を確認するのも忘れて消えていった。
「案外、そそっかしい人だな……」
そう思いながらも、予想通りの答えに、俺は特に動じることもない。
より気楽になった。
思い残すことは山ほどあるが、こうなってしまっては致し方がない。
半ば諦めムードに浸っていたそんな時、気が付くと、自分の隣に一人の少女が腰を下ろしていた。
何時、乗り込んできたのだろう……歳は十にも届いていないようだ。白いワンピースに身を包み、膝の上に青いリュックを載せているその姿は、これまで見た死者と違い、まるで旅行者のような雰囲気だった。
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