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毎回、お箸を忘れた武士に、泣きつかれ、私の割り箸を一本ずつ分けあい、互いに半分に折って食べた弁当が懐かしい。
「どうして弁当は忘れないのに、お箸を忘れることが出来るの?」聞いたことがある。
「本能だよ」と応えた口が急に憎らしくなり、あいつの頬を右手の指で捻りあげてやった。痛がる武士の変顔を見て、涙が出るほど笑った。
そう言えば、はじめての口づけは帰り道の夏の浜辺だった。防波堤に座っての小休止で「聡美!」と急に呼ばれ、振り返りざまに奪われた唇。無言で武士の後を歩んだ。家で火が出るほど唇周辺が熱くなりどうしていいのか判らなかった。ただ団扇であおぎ続け、母に不信がられて、「辛いものを食べすぎた」と言い繕った。
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