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一緒に行こうよ。
人は俺を「ホームレス」または「浮浪者」と呼ぶ。
この身分になってから気づいたのだが、この職業は気ままなその日暮らし…というわけではなく、存外に規則正しい生活を送っている。
朝は夜明けとともにに活動開始。地下鉄の駅に潜ると、主にゴミ箱の回収。つまり、空き缶や読み古しの雑誌を拾い集める。程よい量が貯まったら卸し役の元へ。日銭と交換し、本日の仕事終了。午後は炊き出しに並んだり、地下道でうたた寝をした後、夜は公園のダンボールテントで床をとる。
こんな俺でも一時期ITベンチャーの社長をやっていたわけだが、その頃の方が不健康で、毎日睡眠時間を削ったり、酒の付き合いで肝臓を傷めていた。その頃に比べるとかなり規則正しい生活を送っているため、むしろ健康体なんじゃないだろうか。
―さて、今日も午後の嗜眠を楽しもう。
そう思っていた俺に、突然嵐はやってきた。
「おじさん、ねえ、おじさん。」
瞼が半分落ち、α波がほどよく出かけていたところを、いきなり突き刺すような子どもの高い声が目の前から聞こえ、俺は眼をぎょっと見開いた。
普通の人々は、通路脇に座り込む俺たちをまず見ようとはしない。ちらりと見ても壁の模様か、落ちている紙屑かくらいの眼差しで通り過ぎるのが関の山だ。
そんな扱いに慣れていたこの5年で、久々に俺の事を見て、まっすぐ俺を呼んできだ。声の主は…5歳くらいだろうか。一人の男児だった。
「お……」
久々にいきなり声をかけられた時、人というものは何も発することが出来ないものなのだな。
―ぼうや、俺みたいな人に声をかけちゃいけないよ。こういう場合はママが鬼の形相で歩いてきて「○○くん!見ちゃいけません!」って手を引っ張られていく……そんな俺たちなんだ。
大体、この子の親はどこにいるんだ。観たところ、この男児が一人のようだが…。
「おじさん、地下鉄くわしい?ずっと、地下鉄の駅にいるからくわしいでしょ。」
男の子は構わず続ける。
「あのね…そういうことは駅員に……」
「あのね、あのね。僕と『中央病院駅』へ、一緒に行ってほしいんだ。」
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