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あまりに突飛な男児の願いに、ようやく喉の奥から言葉がゴロつきながらも出てきた。
「あの、ぼうや、迷子になったのかい?」
「違うよ。ぼくひとりだよ。」
「親は?ママは?」
ママ、という言葉にさっと表情が曇る。
「僕のママが、いま『中央病院』に入院してるの。だからお見舞いに行きたいんだ。でも地下鉄って初めてだから乗り換えとかよくわからなくて。おじさん、詳しいでしょ。」
「おじさんより、駅員さんや駅のおまわりさんの方がくわしいよ」
男児は周囲の様子をはばかりながら、器用にもボリュームを落として小声で抗議してきた。
「それはダメでしょ!駅員さんやおまわりさんは、ママじゃなくて大人のところに連れて行っちゃうでしょ!」
なるほど、この子、賢いな。まあ、普通、こんな場合は保護者機能を果たせていないママではなく、保護者たる大人の元にまず連絡を入れる。この子の推理は正しい。そしてきっと保護者の元に戻され、男児が目的としている中央病院へ行くことはきっと出来ないだろう。
「パパは?。」
「パパはいない、ずっと。」
母子家庭なのか。ケロッとした表情で男児は続ける。
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