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「だから、いま、ママの知り合いのおばさんの家にいるんだ。駅員さんに捕まったらおばさんが迎えに来ちゃう…」
「おばさんに『ママのところへ連れてって~』って頼めばいいじゃないか。」
「それが、ママが疲れるからダメだって言うからおじさんに頼んでるんだよぉ。」
子どもならではの長いまつ毛を伏せて、男児は悲しげな表情を浮かべた。
「だから、お昼寝していて、暇そうなおじさんなら僕と行ってくれるかな、って!」
なるほどね。いかにも子供が考えそうなことだ。でも、相手はこの格好でこの成りの俺だぞ?
「話は分かった。でも、ぼうや。よく見てごらん。おじさんさ、ほら。お金持ってないし、お風呂も入ってないんだ。こんな格好だと、地下鉄に乗ったら、みんなびっくりしちゃうだろう?」
我ながら、耳が痛い。まあしかし、これも事実。5年前の状況が今日の俺を作った。以降、風呂に入らず、髭もそらず、着た切りすずめでいるのだ。
だが、男児はたじろがない。
「でね、でね。だから、ぼく考えたんだ!あるばいと、ってやつだよ!」
男児は背負っていたリュックからくしゃくしゃの千円札を俺に手渡してきた。
「これで、お風呂入ったりしてさ!あとは連れて行ってくれる切符とか買って!」
男児なりに考えている。子どもなりの素直さがまっすぐでまぶしい。めげないな。
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