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子供の頃、地下鉄は未知の乗り物だった。住んでいる地域にはなかったのだ。
一度、都内に遊びに行った時に乗ったが、怖いと思ったことをよく覚えている。
地下に続く長い階段は、ポカリと開いた口のようだった。キノピオの、鯨みたいな。降りてしまえば戻れない。そんな気がした。
愚図る私を抱き上げ、両親はおしゃべりしながら長い階段を降りていく。
吹いてくる風がなんだか冷たい。
このまま下に行ったらどうなるのか。何故、両親は平気そうな顔をしているのか。わからなくて泣きそうだった。
それでも目をそらせず、階段の先を見つめていた。
階段を降りた先にあったのは、いつも見るような改札で、意味がわからなかった。
「電車に乗るんだよー」
母親が言う。抱っこされたまま、ホームへ。
トンネルみたいな中に線路が続いているのが不思議だった。
「ほら、来るよ」
父親の声につられ、指さす方を見る。暗闇から光が近づいてくる。
ああ、やっぱりバケモノがいるんだ。食べに来るんだ。
怖くなって父親にしがみつく。
やってきた見慣れない電車に乗るのも、嫌だった。変なところに連れていかれる気がしたから。
外の景色が何も見えない。ずっとトンネルの中みたいな、そんな窓の外の景色なんか見てても何も楽しくない。むしろ不安を煽る。
怖くて怖くて、ずっと父親にしがみついていた。
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