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奏太はキッチンに立ってやかんに火をかける。お湯が沸くのを待つ間に、スマホで今日の行先を検索した。三ヶ所ほど目星をつけて、移動に使う地下鉄も調べる。
今日は晴れて暖かくなるといい。
そんなことを思いながら、ロッキングチェアで眠る恵美と、窓の外の暗い空を眺めてお湯が沸くのを待った。
あと一時間もすれば通勤ラッシュで大混雑になるのだろうが、早朝の地下鉄はまだそれほど混んでいない。今日は平日の水曜日で、周りに乗っているのはスーツ姿の人ばかりだ。
そんな中、奏太と恵美は私服姿で並んで座っている。しかも座った途端に恵美の頭は奏太の左肩を枕にしていた。きっと今日も、嫉妬混じりの嫌な視線が奏太を射ぬいているのだろう。でも、そんなことを、奏太はもう気にしなくなっていた。奏太はただ、向かいの窓を見つめるだけだ。
こんなふうに周りを気にしなくなったのはいつからだろう。少なくとも、初めて恵美と仕事に出かけた日はこんなに平然としていられなかった。
*
恵美の仕事に初めて付き合ったのは、今から二年前、奏太がまだ大学三年生の五月の終わりの頃だった。恵美と出会ってから、一年が過ぎていた。
その日も朝早くから、奏太は恵美と一緒に電車に乗って並んで座っていた。今と違っているのは、地下鉄ではなく普通に地上を走る電車に乗っていたことだ。
「着いたら起こしてね」
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